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Skyggen i mit øje その瞳に映るのは

デンマーク映画 (2021)

映画は、実際に起きた歴史上の出来事を元に、様々な登場人物を創造して内容を膨らませ、非常に高い評価を得た作品に作り上げた。まず、その “歴史” について語っておこう。事件は1945 年 3 月 21 日に起きた。下の地図は、デンマークの首都コペンハーゲンの現在のマップ。文字で書いた3ヶ所は、当時も今も変わらない。●印は、英空軍の爆撃作戦のターゲットのShellhuset〔シェル本社〕。1944年にゲシュタポに接収され、その本部として使用されていた。英空軍が使用したのはモスキート爆撃機。それを1~3派に分けて、時間差でゲシュタポ本部の空爆を計画した。その第1波の1機の翼が、線路沿いの印の場所にあった高さ30mを超える鉄塔に接触した〔すべての飛行機は、敵に気付かれないよう、家並すれすれの低空を飛行するよう指示されていた〕。飛行機は、西南から印に向かっていたと思われるが、翼が破損したため、90度左に逸れ、印のすぐ北にあるPalnatokesgade通りからSønder大通り119番地の屋根にぶつかり、そのまま北上してEnghavevejens学校をかすめ、ここでさらに西に逸れ、印のすぐ西にあるAlléenbergのガレージに墜落。そこには、ガソリンタンクがあり、それと、墜落した爆撃機の爆弾や飛行燃料が一体化して爆発し、周辺が火に包まれる。この炎と黒煙を見た第2派と第3派のうち、少なくとも3機が、そこをターゲットだと勘違いして爆弾を投下する。1発目は、ガレージの東にあった印のDen Franske Skole〔フランス学校、あるいは、ジャンヌ・ダルク学校〕の東翼にあった礼拝堂の床を貫通し、鉄の梁で止められて爆発し、中学校の階段が崩壊。その数秒後に、建物の主翼が2度攻撃され、小学校の階段と、建物中央の主階段が崩壊。多くの人命が失われた〔86 人の子供と 18 人の大人〕〔ロシアがウクライナで行っている民間人の殺戮と比べると少ないかもしれないが、それでも、こうした大掛かりな映画となることを考えると、ロシアの非人道的な行為の悪質度に改めて怒りを覚える〕。地下に逃れた生徒の中には、破損した水道管から溢れた水で溺死する子がいた一方で、父親に常日頃(つねひごろ)から “地下には逃げるな” と言われていた子が、粉砕された石の粉で真っ白になりながら、外に逃げて助かった例もある、映画では、そうした実例をうまく生かしている。この映画で重要な役を演じるのは5名。うち3名が子役で、映画の最初から最後まで、連続ではないが顔を見せるのは、ヘンリー。彼がコペンハーゲンに行ってから仲良くなる2人の少女リーモアとエヴァ。あと2人は、3人が通うフランス学校の新米の修道女テレサと、予備警察隊〔ゲシュタポを支援するデンマーク人の協力者〕、“HIPOの豚” のフレデリック。ヘンリー役のエネヴォルドセンと、フレデリック役のアンデルセンは、共にデンマーク映画批評家協会によるボディル賞の主演男優賞にノミネートされたが、受賞はできなかった。このヘンリーは、田舎で、英空軍による民間タクシーの誤射を見て、恐怖のあまり口がきけなくなるが、この誤射は、コペンハーゲンの誤爆の予告的存在と言える〔誤射した2人組の仲間が、塔に接触して墜落した2人組〕

映画は、ユトランド半島の片田舎に住むヘンリーという少年が、1944年、英国空軍の誤射で無残に殺されたタクシーの4人を目撃し、①広場恐怖症、②心因性失声症になってしまうところから始まる。母は、少しでも “広い空” を見なくて済むように、ビルが空を狭くしているコペンハーゲンにいる妹の一家に預けることにする。ここから、映画は、1945 年 3 月 21 日に実際にあった英国空軍によるカルタゴ作戦に至るまでの経緯を、(a)ヘンリーとその従妹のリーモア、その友達のエヴァの3人組と、(b)ヘンリーが通うことになるフランス学校に来たばかりの若い修道女テレサと、デンマーク人の間で一番嫌われていた “ゲシュタポの手下となって動くデンマーク人の組織HIPOのメンバー、フレデリックの間の不思議な関係、(c)英空軍の動きの3つに交互に焦点を当てて描いていく。ここまでの所要時間がちょうど1時間。そして、3 月 21 日に起きた 偶然が起こした悲劇を、映画は最後まで映し続ける。その惨劇の中で、運よく助かったヘンリーは、ケガをした子供たちの情報を集めて、心配している両親の元に届ける役を仰せつかり、それが、彼の①と②を治癒させる。リーモアとエヴァの最後は、両極端に分かれるが、三者三様に感動的だ。この映画は、歴史的な事件を忠実に再現し、なおかつ、人間の感情を見事に描き、実に自然な特殊効果と相まって、大人向きの素晴らしい作品として仕上がった。Netflixなので、いつでも観ることができるから、一見を是非とも勧めたい。温かい感動を味わうことができる。

明確な主役がいない中で、5人の重要な役の中で、映画の冒頭からラストまで一貫して出演しているのはヘンリー役のバートラム・ビスゴ・エネヴォルドセン(Bertram Bisgaard Enevoldsen)。2006年4月3日。映画の撮影日に関するデータは、結構しつこく調べたが出て来なかった。2021.10.28の公開で、映画の中で紅葉シーンがあるので、少なくとも2020年の撮影。特殊効果が多いので、2019年に遡るかもしれない。撮影時の年齢は13~14歳の何れか。ある意味、環境の犠牲者の役なので、涙を流すシーンがすごく多い。そんな中で、僅かな笑顔が光る。この映画の前に、2つTVに出ている。右上の写真は、『Skyldig』(2019)の時のもの。

あらすじ

映画の冒頭、2つの文が表示される。最初のは、短く、「爆弾が落ちた時に発せられた悲鳴を決して忘れないだろう。学校は闇に包まれ、子供たちは恐怖のあまり泣き叫んだ」という、爆撃の惨状を現わしたもの。次の一文は、それに至る経緯の説明。「1945年の初め、レジスタンスは、コペンハーゲンのシェルハウスにあるゲシュタポ本部を爆撃するよう、英国に繰り返し依頼した。英国空軍は、レジスタンスの捕虜たちが、人間の盾として屋根裏に入れられていたので、躊躇した。しかし、3月になり、ゲシュタポがレジスタンスの解体を始めると、攻撃を決断した」。そして、1人の少年(ヘンリー)が口笛を吹きながら自転車に乗っている(1枚目の写真)。場面はすぐに切り替わり、彼が走っている田舎道とともに、ユトランド半島、1945年2月と表示される(2枚目の写真)。口笛は続き、自転車の荷台には、生卵が1ダース以上入った藤の網籠が乗っている。一方、村の1軒の家の前に黒いタクシーが停まっている。家の中では3人の娘が着飾っている〔この間も、口笛は続く〕。3人は仲良くタクシーに乗り込む。自転車が、坂道にさしかかったので、ヘンリーは自転車から降りて押していく(3枚目の写真)。道は再び下りとなり、ヘンリーは自転車に乗る。

運転席から後部座席を撮った映像(1枚目の写真)の、リアウィンドウに、突如として白煙が映り、どんどん近づいてくる。そして、車内の3人は、機銃掃射で血まみれになる(2枚目の写真)〔映ってはいないが、当然、運転手も〕

ヘンリーが、異様な射撃音で振り返ると、さっき通り越した坂の上から飛行機が1機現われ(1枚目の写真)、頭上を飛び去って行く。ヘンリーは、坂の向こうで何があったのか確かめようと、再び、自転車を押して坂を上る。そこに見えたのは、無残にも破壊され尽し、元の姿も留めていない車の残骸だった(2枚目も写真)。車の中には炎が立ち込めている。そして、窓には血しぶきが。ヘンリーは、窓から中を覗く(3枚目の写真)。恐怖のあまり手を放してしまい、自転車は倒れ、生卵はすべて割れる。ヘンリーは、自転車を放置したまま逃げて行く。

ここから、ヘンリーには関係のない場面が入るので、映画の流れが分かる程度に簡略化して紹介する〔以後も、すべて同じ〕。コペンハーゲンの郊外にある農家にいた1人の20代そこそこの男(フレデリック)を、同じ年頃の男が匿ってくれるように頼みにくる。後で、たれ込み屋〔stikker〕らしいことが分かる。次の食事のシーンでは、HIPOの制服姿で食卓についた息子を見て、父が批判する。それを庇おうとする母に対し、父は、「なぜ、わしらは、こんな害虫〔skadedyr〕と一緒に暮らしとるんだ? 恥を知れ〔Skam over dig〕」。この言葉で、デンマーク国民のHIPOに対する嫌悪感、特に、自分の孫がそんな選択をしたことに対する怒りがよく出ている。父は、母に向かって、「こいつは、お前が生んだ息子じゃない。息子はもうおらん。HIPO豚になりおった」とも言う。次に、コペンハーゲン市内を、ゲシュタポの将校と一緒に乗った少女(グレタ)が映る。それと同時に、同じ通りを母と一緒に歩いている別の少女(エヴァ)が映る。すると、先ほどフレデリックに助けを求めに行った男が、2人の男に挟まれ、IDで名前を確認され、その場で射殺される。それを車の中から見た将校は、デンマーク人同士の殺し合いなど何とも思わないし(2枚目の写真)、ドイツ人のグレタも平然としている。それに対し、すぐ近くで殺人を見ていたエヴァは、事件を知った母によって、“恐いものをみた顔” のまま連れ去られる(3枚目の写真)。

ヘンリーは、建物の煉瓦に手を添えて歩いている。そして建物の角までくると、立ち止まる。一緒に来た母は、「坊や〔Skat〕、何もないわよ。ヘンリー、遅刻してしまう。いくわよ、ほら」と、何とか連れて行こうとする(1枚目の写真)。ヘンリーは、あの飛行機を見て以来、広い空間が怖くて通れなくなってしまっていた。今いる建物の角から、正面に見える建物までは50mほどの空間がある。ヘンリーは、思い切って走り始め、母は慌てて後を追う(2枚目の写真)。ヘンリーは、建物の手前に生えている大きな木の下までくると、幹にしがみつき、守られたような気分で枝を見上げる(3枚目の写真)。

その建物は、医院だった。医者はヘンリーに対し、「一体どうした? この強情なチビ助」と話しかける。ここで、母が、「私たち、どこにも行けません。最悪なのは、声なんです」と言う〔声が出ない〕。「そりゃ、いかんな、ヘンリー。お母さんが何か訊いたら、ちゃんと答えないと。君が何も言わなかったら、お母さんは困るぞ。それに、何が悪いのかも、私たちに話せない」。そこまで話すと、ヘンリーの首に手を当て、「そこで、何を見たんだ?」と訊く。「何だった? 車の中にいた人たちか?」。ヘンリーは、訳の分からない言葉の断片らしきものを発し、後は、手を使って表現しようとする(2枚目の写真)。ヘンリーの住んでいるのは田舎なので、相手は、このような症状に対応できるような知識の持ち主ではなかった。そこで、顔を近づけると、「何とか言え、くそったれヘンリー!!」と大声で怒鳴る。「話せ!! 何か言え!! しっかりしろ!! 男なら、ダラけるんじゃない、このクソガキ!!」。このあと、母に向かって、「荒々しくみえるかもしれませんが、脅すと効果のある時があるんです」と弁明する。そして、ヘンリーの首を揺すりながら、「今なら、何か言えるか、ヘンリー?! 何か言って見ろ!」と強制するが、出てきたのは涙だけ(3枚目の写真)。「こりゃ、ダメだ」。母は、「思うんですが、コペンハーゲンに妹がいます。あそこなら、この子が一番怖がってる広い空がありません」と話す。役立たずの医者は、「泣き虫〔tøsedreng、“女々しい男” の意味もある〕を演じただけで、コペンハーゲン行きのご褒美か。でも、まあ、頑張れ」と、どうしようもない言葉を贈る(4枚目の写真)。

イギリスにある軍用滑走路を、戦闘機のコンビ〔操縦士と航法士〕が歩いていると、その前に、背後から高速で走って来たジープが停まり、上官が降りて来る。そして、デンマークのSOE〔特殊作戦執行部〕の少佐が、数週間前に、彼らと一緒にユトランド半島に飛んだ2人組の戦闘機が、Hobro(ホーブロー)の北でドイツの車両を破壊したが、地元のレジスタンスからの電報によると、結婚式のパーティに向かう3人の女性を乗せたタクシーだったと指摘し、すべての操縦士に注意喚起を行っていると話す(1枚目の写真)。次に映るのは、コペンハーゲンのシェルハウス。中では、フレデリックも見ている前で、ゲシュタポがレジスタンスのリーダーに対し、極めて残念な拷問を行う。そして、3番目はフランス学校の中で、1人の新米の修道女テレサが、中世に行われていたような、“自己懲罰としての鞭打ち” を行っているのが見つかり、院長の前に呼び出される。院長は、今は15世紀ではないと断った上で理由を尋ねる。返事は、「神を探しています」「もし、それが罪なら、私は罰せられます。そうすれば、神に見られていることが分かります」という、変な理屈。院長は 「神はあなたの痛みなど、気にかけません」と、個人主義的な思想を諫める。テレサはユダヤ人の子供たちの死を念頭に、「彼らは、人間ではないのですか?」と問い掛け、ユダヤはキリストを神の子として信じていないからとする院長と、ある意味対立し、“要注意シスター” となる。

ヘンリーと母は、雷雨の中、コペンハーゲンの街を歩いて叔母のアパートに向かう(1枚目の写真)。叔母には、ヘンリーより若干年下の少女(リーモア)がいて、母親と伯母(ヘンリーの母)が話し合っている向こうの部屋に ヘンリーが座っている(2枚目の写真)のを、興味深く見ている。母は、「可哀想なヘンリー、あの子には、空がたくさんある広い場所は、最悪なの」と話し、叔母は、「分かるわ」と理解を示す。「引きずっていかないと、いけないのよ」。「ここなら大丈夫」。「優しいのね」。「もちろん、何でもするわ」。リーモアは、大好きな人形を抱えて、ヘンリーのいる部屋まで行くと、ヘンリーの前に膝をついて座り、目の高さを合わせる。そして、いきなり、「燃えてる車の中で、死んでる人たちを見たせい?」と、ズバリ訊き、さらに、「だから、話さなくなったの?」とも。それを耳にした彼女の母親は、「リーモア、今は、楽しいことだけを話すの。覚えてる?」と注意する。リーモアは頷くと、ぬいぐるみの人形の紹介を始める(3枚目の写真)。ヘンリーの母は、汽車の時間があるので、別れを告げる〔1945年の時点では、コペンハーゲンのあるフェラン島と、オーデンセのあるフュン島の間には橋は架かっていなかった。だから、コペンハーゲンからKorsørまで汽車で行き、そこで船に乗り換え、対岸のNyborgで再び汽車に乗ることになる。フュン島とユトランド半島を結ぶ小ベルト海峡橋は、1935年に鉄道橋ができているので、そのまま乗り換えずに半島まで行くことができる。コペンハーゲン~Korsør間110キロ、Korsør~Nyborg間の船50キロ、Nyborg~Fredericia間94キロ、そこで、半島を南北に縦断する線に乗り換えFredericia~Hobro間201キロ。計、鉄道405キロ、船50キロ、ヘンリーの母は、戦時下に、息子のために大変な旅行をしたことになる〕。母は、別れるにあたり、息子にメモ帳を常時首から下げているよう指示する。そして、リーモアには、「ヘンリーの世話をするって約束してくれる?」と訊き、快諾を得る。リーモアの母は、「シスターたちにも話したわ。会うのを楽しみにしてるそうよ」と付け加える(4枚目の写真)〔フランス学校は 女子校〕。母の最後の言葉は、「1ヶ月後に会いましょ。いいわね?」。

ここで、英国空軍による「カルタゴ作戦〔Operation Carthage〕」についての説明が入る。「これまでにない危険な任務。時速450キロで 屋根の高さを飛んで首都の中心に向かい、1つのビルだけを破壊する。目標は、コペンハーゲンにおけるゲシュタポの本部シェルハウスだ。我々の目的は、できるだけ多くの記録保管所を破壊し、ドイツ兵ども〔Huns: 一般的には、文明の破壊者(フン族)の意味〕を殺害することにある。レーダーを避け、マスタング30機の護衛とともに、北海を低空で渡り、ユトランド半島を超え、シェラン島のTissø湖〔島に入ってすぐの湖〕で3つの飛行隊に分かれる。第一飛行隊は そのままコペンハーゲンに向かう。第二飛行隊は湖を一周、第三飛行隊は二周し、三派に分かれる。我々は、最も忙しい時間帯の朝遅くに攻撃するため、最も高い殺傷率を期待できる。爆撃には、着弾30秒後に爆発する延期爆弾を使用する。ゲシュタポは、攻撃を予期し、レジスタンスのデンマーク人捕虜30人を、人間の盾として屋根の直下に監禁している」。1枚目の写真の矢印は、シェルハウス。2枚目の写真は、飛行ルートだが、常に2本の線がある意味は不明。爆撃機と、護衛の戦闘機だろうか?。

ヘンリーの叔母の家の朝、登校直前の様子。室内に干してあった洗濯物を外すように言われたリーモアは、ヘンリーを踏み台にして上がると、物干し紐の片方を外す(1枚目の写真)。映画では、この外すシーンしかなく、そのあと、母親が見に行くと、洗濯物は、物干し紐(ひも)から外したまま置いてあり、紐はなくなっている。外に出たヘンリーは、歩きながら、常に空を見上げて不安そうにしている。リーモアの横には、たれ込み屋の射殺シーンの時に、ちらと顔を見せたエヴァが一緒にいる。リーモアは、「エヴァも死を見たのよ。男が、頭を撃たれるところを」とヘンリーに言い、エヴァに 「でも、あんた 話せるわよね?」と訊き、さらに 「何か話してみなさいよ」と言う。「何を話すの?」。それを聞いたリーモアは、今度はヘンリーに、「見た? 誰かが死ぬのを見ても、彼女は話せるわ。試して」と、年上のヘンリーに要求する(2枚目の写真)。当然のことながら、ヘンリーには何も言えない。「気にしないで。多分、喉に何か詰まってるんだわ。丸パンを食べたらどうかな」。エヴァは反対するが、リーモアは、ヘンリーを、すぐ前の店の窓に連れて行く。そこには、丸パンが山のように積んであった。それを見ながら、「問題は、ここには、すっごく気味悪い、カバ女がいるってことね」と言い出す(3枚目の写真)。「カバ女の中には、死の魔女がいる。彼女の尖った指は、死んだ子供たちの骨でできてるの。もっと怖いことに、彼女の目は炎で穴を開けるから、絶対に目を見ちゃいけない。でも、それが最悪じゃない。最悪なのは…」。エヴァ:「丸パンに毒が」。リーモアとエヴァ:「一口食べるだけで死ぬ」。にもかかわらず、リーモアは 「入るわよ」と軽く言う。そして、3人は店の中へ。エヴァ:「なら、どうして毒入りの丸パンなんか買うのかって、思うでしょ? リーモアは、解毒剤を持ってるの」。リーモアは、人間とは思えないほど太った女性から丸パンを1個買う。

その店を出た3人は、フランス学校の前の通りにさしかかる(1枚目の写真)。この学校の破壊前の写真を2枚目に示す。右翼の建物のデザインは、映画の建物と非常によく似ている。これほどそっくりな建物が、他の都市に現存しているとは思えないので、1枚目の写真の建物はCGであろう。ヘンリーにとって問題なのは、学校との間にある広い道路。その上には、広い空が広がっている。だから、ヘンリーは建物の壁に背を付けると、それ以上、動こうとしない。そこで、リーモアが取り出したのが、先ほどの物干し紐。だから、部屋には、洗濯物だけが床に置いてあった。リーモアは、物干し紐の端をヘンリーの腰に縛り付け、リーモアが紐を持って前に引っ張り、エヴァがヘンリーを後ろから押すことで、道路を渡って行く(3枚目の写真、ヘンリーは、戦闘機が来ないか空を見上げている)。学校の門が近づくと、ヘンリーは自発的に走り出し、門にしがみつく。リーモア:「やったね〔Du klarede den〕!」。エヴァも 同じ言葉をくり返す。そして、リーモアは 「明日は、絶対、紐なしでできるわ」と嬉しそうに言う(3枚目の写真)。

3人は、学校の中にある教会にこっそり入って行く〔修道女によって運営されている学校なので、教会の存在は必須〕。リーモアは、ヘンリーを聖水盤のところに連れて行く。そして、2人に、3等分した丸パンを渡す(1枚目の写真、矢印)。ヘンリーが、それをすぐ口に入れようとしたので、エヴァが 「ノー」、すぐに、リーモアが 「気は確か?」、エヴァが 「毒入りよ」と言って止める。リーモアは、丸パンを3回聖水につけ、イエス様に向かって丸パンを掲げるよう教える(2枚目の写真)。「そしたら、食べる」。食べ終わったリーモアが、「生きてる!」と言って笑顔を見せると、ヘンリーも初めて笑顔を見せる。そして、メモ帳に「Hurra(やった)!」と書いて、2人に見せる。そこに、新米修道女のテレサが顔を出し、「ここにいたの。一緒に来て。遠足に行くのよ」と、声を掛ける。リーモアは、「これ、従兄のヘンリー。話せないの」紹介し、テレサは、「ようこそ、ヘンリー」と言う。

年を取った修道女〔このクラスの担任〕を先頭に、テレサが末尾につき、一つのクラスの生徒が学校の外の歩道を歩いている(1枚目の写真、一人だけ背の高いのがヘンリー)。そうすると、煉瓦壁の向こうから、「待たんか、このくそ野郎!」という罵声が聞こえる。そして、大勢のHIPOが、1人の男を追いかける。先頭の修道女は、塀が途切れた部分に立ち、生徒達に、立ち止まって見ないよう指示する。修道女が、最後の生徒と一緒に歩いて行くと、テレサは足を止め、騒ぎの方を見つめる(2枚目の写真)。捕まった男は、「このHIPO豚どもめ!」と叫び、それを5人掛りで蹴飛ばす。そのうちの1人(フレデリック)が、修道女に見られていることに気付き、1人で近づいて来ると、「どうしました?」と訊く。テレサは、フレデリックの、“人を殴った手” に触ると、「あなたは悪魔ね」と言う。そして、フレデリックの耳に、「神を見つけないと、業火〔地獄〕で焼かれるわよ」と囁く。修道女は、テレサが来ないで、戻って来て その “醜態” を見て、「一体 何を考えてるの? この ひよっ子は」と、叱り、連れ去る。その後、捕まった男は、シェルハウスに連れて行かれ、屋根裏に監禁される。

夜、テレサが通りを歩いていると、後ろから車が近づいてきて、通り過ぎたところで停車、中からフレデリックが降りてくる。フレデリックは、「この前、あなたは、何か言ってた。神がどうのこうのと。俺には、何のことか分からないし、もう手遅れだ」。「何が、手遅れなの?」。「戦争が終われば、俺は死刑になる」。「何という罪業でしょう」。「憐れみを求めているんじゃない」。「何を求めているの?」。「俺に、神を見つけろと言ったでしょ」。「神は、黒い制服は好まれません」。「俺は悪魔だ」(1枚目の写真)。ここで、テレサは、意外な言葉を口にする。「キスして」。「何だって?」。「あなたのような人とキスすれば、神は私を罰するでしょうから、神の存在を知ることができます」〔彼女は、以前も、「もし、それが罪なら、私は罰せられます。そうすれば、神に見られていることが分かります」と言っていた。彼女は、修道女でありながら、神の存在を無条件に信じていない。証拠を求めている〕。テレサは、フレデリックの反対を押し切り、自分からキスし、そして、何も天罰が下らないので、「‪稲妻に打たれなかった。神は存在しないのね」(2枚目の写真)と、ある意味、傲慢で自己中的な推論を言い放つ〔なぜ修道女になったのか理解できない〕

フランス学校での授業の様子。担任の修道女が、「今年の劇は、テューリンゲンのエルジェーベトです」と告げる〔エルジェーベト(1207-31)は、1221年、14歳でルートヴィヒ4世と結婚し1男2女をもうけ、6年後夫がペストで死亡。彼女は、教皇委員のコンラッドから多大な影響を受け、1228 年の夏、マールブルクにフランシスコ会病院を建設し、その完成後、病人の世話に専念したが、その慈善活動で疲弊し24歳で死亡。死後すぐに、病院の教会の彼女の墓で奇跡、特に治癒の奇跡が立て続けに起き、1235年に列聖され聖エルジェーベトとなった(カトリック百科事典より)〕。エルジェーベトについて、修道女が生徒に質問すると、リーモアがいろいろなことを知っている。その中で、パンがバラに変わった話も出るが、この逸話も、上記の事典には “レジェンド” として書かれている。その時、教室のドアがノックされ、教師が呼ばれ、代わりに、一番後ろに座って聞いていたテレサが、代理で教師を任せられる。リーモアはさっそく手を上げ、「どうやったら、パンがバラに変わるんです?」と訊く。テレサの返事は、「それが奇跡なのよ」(1枚目の写真)。そして、イタリアのチヴィタヴェッキアの奇跡のマリア像の話を始め、血の涙を流す様子をしてみせる(2枚目の写真)〔チヴィタヴェッキアのマリア像に血の涙が最初に現れたのは1995年2月2日(映画は1945年)。涙のDNA検査の結果、血は男性のものと判明した/他には見つからなかったが、これは映画製作者の意図的なミス?〕。このあと、テレサの “神は万能” という話は、どんどん脱線していき、「神の時間と分は 私たちとは違うので、神にとっての1日は 私たちの何百年と同じなのかもしれません。あるいは、神の1秒は、私たちの1年かも、だから、数秒でも目を逸らしたら、神は消えてしまうかも」など、普通の修道女なら決して言わないことを平気で話していく。ヘンリーは、メモ帳に、「Miraklet(奇跡)/Gud lever(神は生きている)/Gud sover(神は眠る)」と書く(3枚目の写真)。

その日の夕食の時、リーモアは、テレサの変な話を両親にそっくり打ち明ける。それを聞きながら、ヘンリーもニコニコしている(1枚目の写真)。それに気付いたリーモアの母は、「それは何? 何が起きたの? 筋肉が、少し動き始めたみたいね。笑顔なの?」と言って、ヘンリーの頬に触り、ヘンリーは今までで一番の笑顔を見せる(2枚目の写真)。「笑顔ができるようになったのね」。ヘンリーはメモ帳を取り出し(3枚目の写真)、「Hun er Tosset(彼女〔リーモア〕は変わってるね)と書いて叔父と叔母に見せる。それを見た叔父は、「そうだな」と言って笑う。リーモアは、自分だけ見せられなかったので、「ねえ、何て書いたの?」と言い、見せられると、「私が? 変わってるのは、そっちよ」と笑顔で言い返し、叔父はまた、「そうだな」と笑う。

食事の後、余興が始まる。ヘンリーが、頭にモップのようなものをかぶって修道女になり、「私は、ヘンリーというハワイから来た修道女。私は従妹のリーモアが大好き。彼女は、優しくて賢い。彼女のお母さんとお父さんも、戦争はすぐに終わると言って、親切です」(1枚目の写真)「幸運なことに、神様がタバコを買いに来られたのです」〔意味不明なのは、テレサの真似?〕。叔母と叔父が、拍手して「ブラボー」と褒めて、「アンコール」の声も上がる。「アンコールに答えるなら、こうしないと」と言って、ヘンリーの後ろから手が伸びて、モップを取る。そして、「ヘンリー、口を合わせて」と指示する。ヘンリーは、如何にも自分が話しているように、「僕の名前はヘンリー。僕は、話せません」(2枚目の写真)「でも、僕とリーモアにもっとケーキをもらえれば、また話せるようになります」と、口パクする。すべて、ヘンリーの後ろに隠れていたリーモアがヘンリーと組んでやった芝居。リーモアの母、「良かったわ」と2人を褒める(3枚目の写真)。

夜、テレサが、学校の中庭の鉄扉の施錠を確認に行くと、そこにフレデリックが現われ、「俺が悪魔だから、キスしたの?」と訊く。「そうよ」。「俺は、もう 悪魔でいたくない。祈り方を教えて」。テレサは、男子禁制の女子修道院の教会に、無断でフレデリックを入らせる。その時、後から入ったフレデリックに教えていなかったテレサの失策で、重い扉が閉まる音が響き渡り、担任の修道女がそれに気付く。教会に入ったテレサは、聖水を指につけて十字を切り、フレデリックにも同じことを求める(1枚目の写真)。テレサは、キリスト像の両側にあるロウソクに火を点ける。担任の修道女は、堂内に入って来てじっと見ている。テレサは、最前列にある仕切り〔正式名称不明〕にフレデリックと並んで跪くと、聖書を渡し、「聖母マリアへの祈り」を唱え始める。しかし、フレデリックは字が読めないので、テレサは 彼女に続いて唱えるよう要求する。フレデリックは、変な意図があるのか、「君が悪魔とキスしたいのなら、ここですべきだ」と言い出す。テレサは強く拒否するが、フレデリックはテレサを床に押し倒し、キスを迫る。テレサは、フレデリックを押しのけると、憑かれたようにキリスト像に歩いて行き、胸の傷口に触れると、指に赤いものがつく〔チヴィタヴェッキアのマリア像の再現、テレサの見た幻想か?〕。テレサは、その指を掲げてフレデリックに歩み寄ると、指を見せる(2枚目の写真、この指には、向きのせいか血が見えない、やはり幻想?)。「神は、話しかけてこられた」。それだけ言うと、テレサはフレデリックを教会から出し、中庭の鉄扉まで連れて行く。担任の修道女も後を追う。フレデリックは。「悪かった。俺は豚だ」と謝ると、テレサは、いきなりフレデリックにキスする。「俺の名前はフレデリックだ」。「テレサよ」。2人は、恋人同士のように見える。テレサは、フレデリックを外に出し、鉄扉を施錠する。

ここから、いよいよ1945 年 3 月 21 日。場所は、イギリスのNorwich(ロンドンの北北東約160キロ)にある空軍基地(1枚目の写真)。ここから、18機の爆撃機(6機×3波)と、30機の戦闘機、2機の偵察機が飛び立つ。2枚目の写真は、SOEの少佐から注意を受けた戦闘機のコンビが、爆撃機に乗り込み、飛行している状況〔上空を飛んでいるのは すべて護衛のための戦闘機〕

エヴァは、この日の朝、どうしてもポリッジ〔オートミール〕が食べられない(1枚目の写真)。父も母も、食べるよう強制するが、「お腹が減ってない」と拒む。父は、「すぐに減ってくる。家を出る頃には。空腹で、学校には行けないぞ」と強く言う。「これ嫌い」。「『Historien om den kræsne Mads(うるさいメスの話)』を知ってるだろ」〔『Den store Bastian(偉大なバスティアン)』という、1809年に出版された子供向きの絵本の中の5番目の話〕「彼は、何も食べたくなかった。4日目にしわしわになり、骨と皮だけになった。5日目に、スープを飲まなかったから死んでしまった」〔正しくは、最初、チビのメスは、ぶくぶくに太っていた。1日目、彼は魚のスープを食べるのを拒んだ。2日目には痩せ始め、3日目に骨と皮だけになり、4日目に吹けば飛ぶような軽い棒になり、5日目に死んだ〕。そして、「早く食べろ!」と怒鳴る。それでもエヴァが食べないと、「もういい、すきっ腹で行け! 帰ったら、ポリッジが待ってるぞ。冷えたポリッジがな」と冷たく言い放つ(2枚目の写真)。

攻撃部隊は、シェラン島の海岸線を越え(1枚目の写真)、地表に近い部分で方向を変える(2枚目の写真)。CGらしさを感じさせない、迫力のある映像だ。

一方、シェルハウスでは、ゲシュタポによるレジスタンスへの残虐な拷問が続いている。その中で、ゲシュタポが、HIPOの男に 「フレデリックは?」と訊き、「2日間、見ていません」と答える。映像は、その後を引き継ぎ、フレデリックが自宅で、父に、「本部がどう出るか分からないけど、俺は辞める」と言う。父は、そう英断したフレデリックを息子として認め、「息子よ、我々が解放されたら、お前は破滅だ」と抱き締めると(1枚目の写真)、「行くがいい」と家を去らせる〔家にいれば、解放と同時に逮捕される〕。フレデリックは、HIPOの制服をゴミ箱に捨てると、普通の上着を羽織って家の敷地からから出て行く(2枚目の写真)。

学校では、「テューリンゲンのエルジェーベト」の劇の練習中。ほとんどの生徒が、ハレルヤを合唱し、エルジェーベト役のリーモアが舞台の中央に置かれた木の模型を 手を振りながら周っている。担任の修道女が、「何してるの?」と注意する。「籠を持って歩いています」。「少し回って挨拶したら、前に進み出て観客に話しかけないと」。もう一度、ハレルヤが始まる。リーモアは、まだくるくる回るだけで停まらない。修道女は、「なぜ停まらないの」と、前より強く注意する。ここで、英国空軍の様子が入る。かなりコペンハーゲンに近づき、無線の使用が禁止される。リーモアは、3度目の演技で、ようやく中央で停まり、口を開く。「私は、テューリンゲンの美しきエルジェーベト。国中に飢餓と貧困がはびこっている。私の心は砕け、信仰は揺らぐ。幼い子供たちが飢え死にしている。今夜、私は神の声を聞いた。『エルジェーベト、私の使者よ。私は主であり、それは真実だ』」(1枚目の写真)。ヘンリーが、照明の方向を変えると(2枚目の写真)、そこに、鉄の鍋を被り、手に玩具の剣を持ったエヴァが登場し、「誰だ? 中を見せろ!」と、籠の中を見せるよう要求する。籠の中には、最初パンが入っていたので、籠を置いた台の下に隠れたグレタが、赤い花に似せた物をたくさん放り上げる〔パンがバラに変わった奇跡の再現〕。一連のシーンが終わると、調子の悪そうなエヴァが修道女に呼びつけられ、「お腹が痛いの? 朝食をとらなかったの?」と、訊かれる(3枚目の写真)。「いいえ」。「エヴァ、朝食を抜いては生きていけないわ。お手洗いに行きなさい」と命じる。

一番暇そうなヘンリーは、修道女に、エヴァと一緒に行くよう命じられる(1枚目の写真)。飛行機は、コペンハーゲンの郊外に到達する。この練習をテレサも見ていたが、練習が終わると、担任の修道女が寄って来て、「神は見つけた? それとも、HIPO豚の方が好み? 院長には話したわ。今日が、あなたの学校での最後の日よ。あれほど 見下げ果てたことをしたのだから」と、言い渡される。爆撃機の爆弾倉扉が開く。教会では、この日の朝も3人で寄ったカバ女の店で買ったパンを、2人で食べている(2枚目の写真)。エヴァは、ヘンリーに、「頭を聖水に浸けてみたらどうかな。治るかもよ。解毒効果があるもん。ほら、やってみて」と勧める。素直なヘンリーは、言われた通りにする(3枚目の写真)。

いよいよ、問題のシーン。画面中央には、高さ30mを超える線路沿いの鉄塔が映る。そして、4~6階建て統一されたコペンハーゲンの建物のすぐ上を、6機の爆撃機が飛んでくる。先頭の飛行機は、線路を超えてシェルハウスに向かう(1枚目の写真、他の5機も、かなりの低空飛行だと分かる)。後続の1機は線路上を飛ぶ。すると、突然、目の前に鉄塔の頂部が現われ、それに機体が接触し(2枚目の写真)、鉄塔は倒壊する。操縦士:「何が起きた?」。航法士:「尾翼を失った!」〔正確には、左のプロペラが破損して火を吹き、左の尾翼が欠落した〕。「上がれ!」。高度は上がらず、逆に、傾いた左の主翼の先端が屋根にぶつかって破損、爆撃機は完全に傾き、建物の屋根より下を通りに沿って滑空して行く(3枚目の写真)。そして、墜落。その衝撃で、教会のステンドグラスが割れ(4枚目の写真)、破損した壁から飛び散った細かい石の粉が2人に降りかかる(5枚目の写真)。

一方、戦闘の指令機は、シェルハウスに向かって正しく飛行し、延期爆弾を投下する(1枚目の写真)。因みに、2枚目の写真は、爆撃を受けて全焼した実際のシェルハウス。シェルハウスの中で、レジスタンスを虐待していたゲシュタポは、一斉に廊下に逃げ出すが、彼らが入って行った直後に、廊下から激しい爆風が吹き出す(3枚目の写真、矢印の方向に爆風が拡散。痛めつけられたレジスタンスともども、全員が死亡する)。

最初の爆撃機は、フランス学校の近くに墜落しただけなので、修道女と生徒達は、中央階段を下りて避難する(1枚目の写真)。しかし、第二飛行隊の中には、燃え上がった炎を見て、それがターゲットだと勘違いしたバカがいて、炎の先にあるフランス学校に爆弾を投下する(2枚目の写真)。学校の建物自体が攻撃されたため、中央階段が被弾する(3枚目の写真)。階段の最下部では、落下してきた建物の破片で多くの生徒が埋まってしまう。

修道女は、無事な生徒の一部を地下室に避難させる(1枚目の写真)。一方、教会の中からは、石粉で真っ白になったエヴァとヘンリーが外に出て来る(2枚目の写真)。そこに、新たな爆撃機が接近してくる。それを見たエヴァは、そのまま中庭の鉄扉に向かって歩き、ヘンリーは、屋外が怖いので教会に戻る。そして、爆弾が投下。エヴァが道路を渡り切った時に、飛んできた爆弾(3枚目の写真、矢印は爆弾)が、学校の建物に命中する〔教会は逸れたので、ヘンリーは無事だが、地下室は崩壊〕

フランス学校に自分の子供を行かせている親たちは、学校が爆撃され炎上しているのを見て、駆け付ける(1枚目の写真)。しかし、近くまで行っても、建物全体が火に包まれているので、手の出しようがない(2枚目の写真)。エヴァの母は、娘を見なかったと、訊いて回るが、何も分からない。エヴァの父は、ひょっとして瓦礫の中に娘が埋まっていないか、建物の下の穴から、声をかけてみる。そして、中から声が聞こえたので、「助けてくれ! この下に誰かいる!」と叫ぶ。これに応えたのが、フレデリック。今まで自分がしてきた愚かな行為の贖罪のため、全力で手伝う。穴を拡げ、「誰かいるか!?」と大声で叫ぶ(3枚目の写真)。地下のどこかに吊り下げられた状態で生き残ったテレサは、もっと下の方から聞こえてくるリーモアに声をかける。

石粉で真っ白になったヘンリーは、どうしていいか分からず、廃墟の中を彷徨っている(1枚目の写真)。破壊された建物の中から、時折、修道女が子供達を連れて逃げ出してくる(2枚目の写真)。そんな時、消防隊の隊長が、ヘンリーに気付き、「おい、そこの君、君だ。こっちへ来て」と呼ぶ。そして、「我々が救助した少女たちを記録する人間が必要だ。分かったことを紙に書いて、それを劇場〔通りをはさんで 学校の向かい側にある〕の中にいる女性に渡してくれ。そうすれば、その女性が、誰が助け出されたかを両親たちに告げることができる」と頼む。そして、例として、「あの子が見えるか? 金髪、緑色の服、黄色のストッキング」(3枚目の写真)「年は8歳くらい。それを書くんだ。彼女はフレゼレクスベア病院に運ばれる。そのことも書いてくれ。話すことができる子がいたら、名前も訊いて書くんだ。そしたら、メモを届ける。分かったか?」。ヘンリーが頷く。「よかった。いい子だ。急いでくれ」。

ヘンリーには、救急隊員からすぐに声がかかる。「この子は意識がある。名前を訊いて劇場に知らせろ。急げ、早く連れて行かないと」。ヘンリーは、重大で緊急の必要に迫られ、「何… 何なの… 君の名… 名前… 君の名前は? 君の名前は何? 何て名前?」と、次第に言葉になって行く。それでも、少女は何も言わない。ヘンリーは、救急車に運ばれる少女について行き、「何て名前? 何て? もっと、大きな声で言って」。「イェニー」。「何歳?」(1枚目の写真)。「7」。服の色は、石の粉で真っ白だったので、ヘンリーが手に唾をつけて服を擦り、赤だと分かる。ヘンリーは分かったことをすべて1枚のメモ用紙に書く。少女は、すぐに救急車に乗せられる。間一髪だ。ここで、画面は、もう一度、真っ暗な空間に吊り下がった状態のテレサに変わる(2枚目の写真)。テレサがリーモアに尋ね、この段階で、①リーモアのお腹の辺まで水が来ている。②リーモアはうつ伏せの状態、だと分かる〔この地下の場面になってから、次も、その次も、リーモアは一度も姿を見せない〕。テレサは、渾身の力を込めて、「助けて!」と叫び、近くの鉄管のようなものを、金属で叩いて知らせる〔真っ暗なので、実際に何をしているのかは不明〕。フレデリックは、消防隊員から携帯電灯を渡され、単身中に入って行く。一方、劇場の中では、舞台女優が、ヘンリーの来るのを待っている。ヘンリーは、4・5名分のデータを集めると、走って、道路の反対側にある劇場まで走って行き、女優にメモを渡す。女優は、1枚目を読み上げ(3枚目の写真、矢印はメモ、ヘンリーの頬は涙で濡れている)、待機していた両親の該当者は、大喜びで飛び出て行く。女優は、2枚目を読む前に、「頑張ったわね。もっと集めてきてくれる?」とヘンリーに頼む。

フレデリックは、崩れた建物の下にある狭い空間を必死に潜り抜け、テレサの方に向かう〔お互いに、相手が誰かは気付いていない〕。この段階で、①水は、リーモアの口のところまで上がっている、②水を避けるため、顔を上げることはできない、③鉄棒がリーモアの顎を貫通して、それが頭を持ち上げているから、という悲惨な状態〔1つだけ変なのは、顎に鉄棒が刺さっていたら、普通には話せないと思うのだが、声の調子は今までと同じで、はっきりと聞こえる〕。テレサは、助けに来てくれている誰かに向かって、水位が上昇していると伝える。一方、ヘンリーは、2度目の調査を終え(2枚目の写真)、メモを持って行くと、女優は、悲しくて読むに耐えないので、ヘンリーに読んでくれないかと頼む。そこで、読み始めるが、声が小さいので、彼がヘンリーとは知らない、エヴァの父から、もっと大きな声でと頼まれ、大きな声でメモを読み上げる(3枚目の写真)。ヘンリーが恐怖のため “声が出なくなった” 症状は、これで完全に治る。ヘンリーが、3度目の調査に行こうと劇場のロビーまで来ると、リーモアの母が、「ヘンリー」と呼び止める。姉の息子が無事だったので、彼女は、ヘンリーを抱きしめて泣き出す。そして、顔にキスしたあとで、「大丈夫?」と訊き、ヘンリーが頷いたので、「リーモアを見てない?」と訊く。ヘンリーは、「ううん、僕は… 行かないと」と言い(4枚目の写真)、出て行く〔母親は、リーモアのことで頭が一杯なので、ヘンリーが口をきいたことに気付かない。少なくとも、言及しない〕

3度目のテレサ。リーモアは、「私たち天国に行くの?」と訊く。「そうよ。私たちみんな。「イエス様は、私たちを待ってる?」。「ええ、絶対そうよ」〔何度も書くが、顎に鉄棒で、これだけ話せる?〕。フレデリックは、大量の水のことを聞き、入口まで戻って、消防隊に大型ポンプに接続された太いパイプを持って来させ(1枚目の写真、矢印)、それを持って、もう一度 声の主めがけて這って進む。4度目のテレサ。リーモアは水没してしまい、もう声はしない。そこに、光が当たり、助けが来たことを知る。その時、初めて、2人は、お互いが誰だったかを知る。それを知ったテレサは(2枚目の写真)、リーモアと一緒に死のうと、水の中に入って行く。そして、自分のせいでテレサが死を選んだことを知ったフレデリックは、叫ぶが(3枚目の写真)、爆発的な出水で何も聞こえない。外にいるリーモアの父のところまで衝撃波が届くので、フレデリックも死んだかもしれない。リーモアの父と母は、娘の死を直感する。

エヴァの両親は、劇場で待っていたが、夫が、今朝、朝食の時に娘にひどいことを言ったと、後悔して泣き始めたので(1枚目の写真)、妻は、赤ちゃんを夫に預けると、新鮮な空を吸いに外に出て行く。劇場から出ると、学校はまだ盛んに燃えている。その時、3度目の報告をするため、ヘンリーが劇場に戻って来る。ヘンリーを見たエヴァの母は、「あなた、メモの子ね? エヴァって子は? 金髪で、‪茶色のコート、チェックの服、‪黄色い靴下と手袋」と話す。それを聞いたヘンリーは、「でも、エヴァはもうここにはいない」と言う(2枚目の写真)。「それって、どういう意味? なぜ、ここにいないの?」。「家に帰ったと思う」。ヘンリーは劇場の中に行き、母は、今聞いた話の意味を理解すると、家に向かって全力で走り始める(3枚目の写真)。このシーンは、ノーカットで1分20秒続く。短いようだが、30歳を超えた女優が、1分以上全力で走り続ける演技をするのは大変なことで、この “母の歓喜” が、高まる音楽と合わせて感動を呼び起こす。彼女がアパートの階段を駆け上がると、そこには、冷たくなったポリッジを食べているエヴァの姿があった(4枚目の写真)。5枚目の写真は、フランス学校のあった場所の現在の姿。団地になっているが、⊓型をいた学校の正面の空間は公園になっていて、その道路際の中央に小さな慰霊碑(矢印)が立っている。

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